リフォームのススメ
僕らとしては、空間や構造などの全ての要素を、ゼロから設計できる「新築」の方に惹かれる気持ちは捨てがたいですが、今ある建築を生かしながら、手直しを加えてそこで楽しく住んでいくと言うリフォームの考え方は、これからの住居のあり方として重要度を増して来ると思います。僕らの仕事の中でもリフォームの占める割合はますます増えてくるでしょう。
リフォームとは、そこに住む方々の、現在または近い将来の「生活」にしっくり来る形に、現在ある建築空間を「構成」しなおす事だと思います。設計者の立場から言えば、これまで長く住んで来た住宅の良い点・悪い点を、部屋の様子を観察したり、建て主のご希望をお聞きしながら、きっちりとつかむ事が出来るので、新築の場合よりも効果的に、小さな工夫で大きな変化を得られる気もします。
ただ、どんな場合でもリフォームと言う方法を採用できるとは限りません。基礎や土台や柱や梁などの重要な構造部分が腐っていたり、白蟻に食われていたりして、痛んでいる事もありますので、経費や安全性などを考え合わせると、新築の方が良い結果を得られる場合もあります。設計者と相談しながら、臨機応変に計画を進めて行きましょう。
思いつくままに、リフォームの長所・短所を箇条書きにしてみます。
【長所としては、】
- 現在の住宅があまり傷んでいない時(しっかりしている時)には、柱や梁などの既存の骨組みを利用したり、壁の上に新たな仕上げを重ねたりしながら、新築より安上がりに工事できることがあります。
- リフォームの際に、補強工事などを合わせて行ったりするなども効果的でしょう。
- 基礎や骨組みなどの工事が少ないので、工事期間が新築よりも短くて済みます。
- 住み慣れた住宅を生かすことが出来、資源の有効利用と言った観点から見ても、優れているでしょう。
【短所としては、】
- しっかりとした設計図が残っていないことが多く、また、壁の内側や基礎の状態などの全てを把握することは困難なので、思い切った設計が出来ないこともあります。
- 建築基準法の改正により、お住まいが既存不的確(法律に書かれた性能を持っていない建築)となっている事が殆どですが、リフォームでこれを満足させるのは難しいかも知れません。
敷地の環境、ご家族のご要望や、法的制限(面積や高さや防火性能)の他に、既存の住宅の骨組みの配置や建物の状態(傷み具合)など、新築の場合以上に、設計を難しくする要素が増えますが、設計者としては条件が厳しいほど設計に意欲が湧くものです。予算内でご要望を解決するアイデアを形にしていくのは、やりがいのある楽しいことです。リフォーム前の惨状を見慣れた目からすると、出来上がりが、思った以上に劇的に変化し、新築よりも建て主の驚きや喜びが大きい事だってあります。また、ちょっとしたアイデアで(例えば壁の配置をちょっといじるだけで)、これまでのnLDKの住宅が、まったく新しい空間構成に変わる事もあり、不思議な感じすらします。
建て主のご希望を的確に掴むことができれば、小さな変化でも満足の得られることもあります。例えば自然光の採り入れの工夫(窓とかトップライト)であるとか、統一感のある仕上げや寸法の工夫であるとか、プライバシーの確保の工夫であるとか、街との面し方の工夫であるとか(いわゆる街並みへの配慮ですね)など、ちょっとした工夫です。リフォームの邪魔になりそうな古い建物の部分も、上手く利用すればユニークな特徴とする事もできます。例えば、どうしても取り外す事のできない古い柱を、逆に部屋のアクセントとして使って、楽しい空間にする事もあります。まだ、こんな経験はありませんが、リフォームする古い住宅がセンス良くしっかりと設計されている建築だった場合には、その住宅を設計した過去の設計者との、時を隔てたコラボレーションを味わえるかも知れないですね。明治の大建築家とのコラボレーションなんて面白そうです。
リフォームを新築以上に楽しく実り多いものとするには、設計者には、近未来の生活を空間に盛り込む設計力、色々な条件が重なる中で光や風などを有効に作り出すデザイン力、さらにはコスト感覚、現場での臨機応変な対応力などなど、色々な能力が必要になって来ます。これらの力をある程度持ち合わせている者としては、現在のところは住宅設計に経験と閃きのある、一部の建築家が最適かと思うのですが。如何でしょう。
設計をより現実的なものにするためには、出来るだけ早い時期から工務店に参加してもらって、配管・壁内部・天井裏・床下・基礎などの調査や、概算見積などをお願いしながら、協力して工事を進める方法もあるかと思います。リフォームは、計画段階から、新築の場合よりも設計者や工務店との連携が重要になってくるものの様です。設計者を信頼して、一緒に楽しみながら、計画を進めていくことが大切でしょう。
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