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東京より見た故郷

<北海道建設新聞 1994/9/7(日刊)〜東京に住む北海道人として〜>


【本拠地】 

世の中は狭くなったと言われることがある。確かに電話、FAX、パソコンなどの通信手段が普及し、国内各地に航空機を利用して行きやすくなったし、新幹線が短時間で各地を往復しており、通信費や交通費が多少かかることを除けば日本全国どこでも飛んで行って仕事のできる時代になった。 私は生まれも育ちも北海道なのだが、大学を出て以来東京に住みながら仕事をしてきた。東京は現在でも地理的な意味だけでなく、文化や情報の中心地でもある。この都市には江戸時代からの文化の集積があり、今もなお全国から新たに集まる人間も多く刺激的である。また常日ごろ関西からライバル視され、挑まれる立場にあり、そういった面でも刺激が多い。そうした理由からしばらくは、窮屈な住環境と夏の蒸し暑さ、汚れた空気を我慢して東京に住みつつ刺激を受け、日本全国どこでも飛んで行って仕事をしようと考えている。


【北海道独自の形】

 現在、北海道では冬の厳しい自然環境に対応した建築が増えてきており、特に住宅分野での普及は目ざましい。それらは、機密性能、低温水暖房などの技術に裏打ちされて登場したものであり、一見それらは花開きつつあるように見受けられる。だが、本当にそうであろうか。現在の北海道の住宅の内容についての議論は性能論が主流であって、本州の伝統的な形(杉板・土壁・瓦屋根などで構成された伝統的な形式)や、新しいデザイン潮流(東京を中心に現れている前衛的な試み)に負けない北海道独自の形について語られる機会はまだまだ少ないようだ。


【いくつかの経験】 

そんなことを考えつつ、いくつかの仕事に携わったのであったが、北海道での設計・監理の経験を通して改めて北の環境から学んだことが多かった。 屈斜路原野と言う、最も北海道らしい広大な土地で設計・監理したユース・ゲストハウス(宿泊施設)では、広大な平原に立つこの種の建築が自然環境にとけ込みながらも、周囲に埋没することなく、旅人の活動拠点として屹立するための手法を自分なりに探ることが出来た。 また、北海道の歴史と風土に基づいて建築しようと意図するならば、日本の伝統である伸びやかな、流れる、開放的な空間を取り入れることも可能であるし(例えば桂離宮などのような開放的な和室)、気候風土の似たヨーロッパを参考にして、充実した・階層的な空間・量的な空間を取り入れることも可能であると、この建築を通して知るようになった。 いくつかの経験によって、自然を克服しようとする態度が設備環境上の技術だけでなく、材料・構造の選択、表現の仕方、空間の作り方などについても新しい方向性を生むものであると気付くことが出来た。自然環境と対峙し真摯にデザインを模索していくことによって北海道独自の形が見えてくるのではないだろうか。


【おわりに】 

北海道人でありながら、本州で暮らしている人間の目で興味深く感じられたことを書いてきたわけだが、そんなことはとっくに気付いていると言われるかも知れないし、的外れなことばかり書いていると言われるかも知れない。だが、故郷であり自然環境に恵まれた北海道に住んで日本中どこにでも仕事に出かける生活への憧れとは裏腹に、今はまだ様々な情報を提供してくれる東京を離れる踏ん切りがつかないのも事実だし、新しい刺激や伝統的な形体にあふれた環境に暮らした目で北海道を見ると、独自のデザインがまだまだ育っていないと感じるのも嘘ではない。 私は、北海道が、環境や自然の魅力だけでなく、刺激に富んだ文化活動の面においてももっとインパクトを感じさせる地域になってほしいと考える。また、北海道独自のデザイン、日本の他の地域には無い風土・自然環境・歴史などに基づく新たなデザインが展開されることを期待しているし、自分も未来のデザインを展開する一員になっていきたいと強く感じてもいる。



◆現在(1998.12)は、少々気持ちが変わって来ている。東京が好きになってしまった。できれば、ここで暮らし続けながら、日本全国の仕事がしたいと思っている。 理想を言えば、夏の間だけ、避暑を兼ねて北海道で図面を描くのも良いかな・・・。





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