例によって簡単なヴォリューム模型を持って、再び札幌のY氏を訪れた。
波長が合ったと言うのだろうか。Y氏はその案を丸ごと気に入ってくれた。こちらも嬉しい。今回の打ち合わせで、ご両親の住宅も敷地内に建てたいと言うリクエストが新たに出た。息揚々と東京に戻って、また、案を練る。ご両親の住宅は、このユースに接続してしまおう。その方が冬場の行き来にも便利だし、少しでも大きくする事によって、国道を通る車からも分かりやすくなる。ユース棟は2階建てで棟の部分が13メートルもある縦に伸びた空間だが、ご両親の住宅は横に伸びた、1階建てとしよう。それによって、国道から見たときに縦と横に伸びたユニークな形態がいやでも目に入る。ご両親の為には階段を使わない建築の方が将来的にも良いのだ。
この様にして第二案は、縦に伸びたゲストハウスと柔らかく横に伸びた住宅棟が対立しながら接続された、かなりユニークな形体のものとなった。これなら、自然の中で「屹立」できるかもしれない。今回の建築は、その形体から判断して木造とされた。予算的にもその方がベターである。第二案もY氏は文句なく気に入ってくれたので早速設計に取りかかった。
中心点上に吹き抜けのある縦の空間は談話室として、旅人の憩いの場となるだろう。その南側には食堂・デッキを介して外部の広大な庭へと空間が連続している。二階は談話室のホールの周囲にギャラリーが巡り、ギャラリーには宿泊室の扉が開いている。こうすることによって、吹き抜けを囲んだ宿泊室と談話室のつながりが生まれる。宿泊室は、従来のユースホステルに見られる蚕棚式の2段ベッドではなく、一見ツインベットルームと感じられる空間構成として快適さを増した。また、ロフトを利用したベッドも作って、小窓を談話室の吹き抜けに面して穿ち、立体的な面白さを狙った。これに対して住宅棟は、S字状にうねりながら横に伸びる空間とし、室内の壁面上部をガラスにすることによって、空間の流れと広がりを作り出している。和室と居間の間は障子でつながっており、全国に友人の沢山いるY氏のプライベートな客が沢山来たときには居間と和室を一室として使えるよう工夫されてもいる。
設計は順調に進んだ。釧路支庁と打ち合わせをしながら確認申請を進め、標茶保健所や弟子屈消防署にも通った。それと平行して、平面図、立面図、断面図、矩計図と描き進み、建具図や家具図、詳細図なども道東の技術的な事を考えて分かりやすく念をいれて描いて行った。
季節は春から夏に向かっていた。 |