目指す敷地は屈斜路湖の南岸一帯に広がる荒涼とした原野にあった。一面の雪原で広さがつかめなかったが、遠くに見える原生林も敷地の一部だと聞いて驚いた。ここは、屈斜路カルデラの中に位置し、南側に外輪山が迫る。北側に屈斜路湖の水面を見る事ができる敷地は湖に向かって緩い勾配のある平地である。国道243から直角にまっすぐ伸びる町道が敷地への唯一のアクセス路だ。それにしても、迫力のある土地である。「原野」と言う言葉がこれほどぴったりの場所もあるものなのだ。外輪山が荒々しくそびえ、雪原は純白である。ここに立つ建築は、なよなよしたものでは周囲の自然に圧倒されてしまうだろう。
実は、この仕事の話を電話で聞いたときに、東京の事務所で最初に湧いた建築のイメージはスマートで優雅な都会的なものであった。だが、それでは駄目だ。自然の迫力に負ける、色に負ける、形に負ける。
東京都内の狭く変形した敷地に建物を建てる場合等には、道路斜線、高さ制限など法的な制限が多くかかり、時には法的制限のままに建物の外形が決まってしまう事さえある。法的制限はデザインの妨げにもなるが、デザインを始めるきっかけにもなる。道路斜線でどうしても斜めの壁がでる場合には、むしろこれを利用して、面白い建築を作ろうとする事もある。ところが、この原野はどうだ。全く自由にデザインして下さいと、私に向かって空間を突きつけて来ながら、デザインのきっかけを示さない。こういう場所でこそ、設計者の力量は試されるものだ。 |