過去のコラム

住宅の庭

<O-cube 1999.11号 メンバーズフォーラム>

事務所を始めて来年の夏で10年になるのだが、開所当初から何故か都市の狭小敷地で住宅を設計することが多い。これまで設計した住宅を思い返すと庭のあるものは少ない。

例えば20坪の敷地に家族4人の住む家を作ろうとすれば、まずは「内部空間」を充実させたくなる。すると庭に割く面積も勿体なく思えてくる。周囲の状況を読み込んだ設計をすることで、庭など無くても快適な暮らしができるのだ。

もう使い古された借景なんかの例が分かりやすいのだが、その他にも都市の川とも言うべき道路との関係や、周囲の家々との間の隙間、どんな狭い土地でも確実に空いている天空(見上げればどんな土地にも青空がある!)なんかを利用すれば、家の内部空間との関係のさせかた次第では、十分快適な生活の場が出来上がる。だから庭なんか要らないとの思いでこれまで都市住宅を作って来た。

したがって都市の住宅に庭など不要!と言い切ってお終いにしようかとも思ったのだが、実は現在はコートハウスに凝っている。遅ればせながらコートハウスに都市住宅の可能性を見い出してしまったのである。

建て込んだ住宅地の狭い敷地に家を建てる場合、まず気になるのが周囲の家やマンションなどとの視線の交錯。いわゆるプライバシーだが、まずこれをクリアーしなくてはならない。次に太陽光。設計者としては、折角作るのだから太陽の光を十分に取り入れたいと思うので、これを解決したい。

これらを満たす形体をねちねちと考えてみて、最近辿り着いたのがコートハウス。コート(中庭)と言う名の「外部空間」を作る事により、大きな開口部(窓)を内側に開くことが出来(まずプライバシーが解決)、その外部空間(中庭)を利用して、自然エネルギーを取り入れることが出来るのだ(太陽光や通風が解決)。

こんなことは先人達がとっくに気付いていたことで、何も新しいことは無い。それが証拠に、1920年前にベスヴィオ火山の噴火で埋もれたナポリ東方22kmのポンペイの住居もコートハウスだ。・・・などとお叱りを頂戴する事は分かっているのだが、それでも今・現在・私は、コートハウスに凝っている。

実は、何にも新しいことは無いかと言うとそうでもないのだ。意外にも、モダニズムから抜けだせない自分自身の作る建築の「形体」に、必然性を伴った変化の刺激を与えてくれているのだ。その結果は近い内に作品としてお見せできると思う。


◆太陽光や風を取り入れる工夫を、建築の骨格に積極的に反映させる事で、 新しい形体への一歩が踏み出せるのではないかと言う期待がある。

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